まともがわからない

虚実半々くらい

齧歯類の夜

知らない人と話をするのは面白い。

 

先週末は、友達のライブを観るために久しぶりにライブハウスに行ったり、解散してしまったけど大好きなバンド、シャムキャッツのフロントマン夏目氏とほんの少し話せる機会があったり、初対面の人と話をすることが多かった。

以前はそういうのが緊張してすごく苦手だったんだけど、今は少し大人になったのか、よく知らない人に自分の話をしたり、反対に自分の知らない世界を教えてもらうことがとても好きになった。

 

偶然知り合った青年(彼は専門学生で、普段は自転車泥棒をしていると言っていた)と話していた時、何となくペットで飼っていたハムスターの話になった。

その時に思い出したエピソードがある。

 

小学生の頃、ハムスターを飼っていた。

当時は今より動物愛護の認識が広まっておらず、お祭りの輪投げの景品として普通にハムスターが並んでいて、せがむ姉と私を見かねて父が大人気ない反則スレスレの技で獲得してくれたものだった。

 

彼(正直、性別は忘れてしまった)はSASUKEばりのアクロバティックな脱走を試みたり、炊き立ての白米が大好物であったり、なかなか変わったハムスターであった。

多くのペットがそうであるように彼は我々家族に癒しを与え、幼かった姉と私もこの大きな黒目の小さな家族を不器用に可愛がっていた。

 

当然、生き物には寿命がある。

3年以上生きた彼も天に召され、初めて経験するペットの死に泣き喚く姉と私を乗せて、埋葬のため父が山奥の公園まで車で連れて行ってくれた。大きな恐竜のオブジェがある公園だった。

 

数年後、大学生になった私があてもなくインターネットを見ていると、ある記事に行き当たった。それは例のハムスターを埋葬した公園についてのものだった。記事によると、どうやらここ数年の間に公園は心霊スポットと化していたらしい。実際の潜入レポのようなものもあり、「恐竜のオブジェの目が動いた」などという体験談がまことしやかに書れていた。

 

あいつのしわざだ、と私は思った。あいつが恐竜の目を動かしてるんだ、と。

それ以来、夜の公園で人間をからかうハムスターの亡霊を想像すると、今でも私は愉快な気分になるのだ。

 

私が話を終えると、青年は「なんですか、それ」と呆れていたが、では僕からも秘密の話を一つ、とわざとらしく勿体ぶってから、「タピオカって実はチワワの目なんです」とこっそり教えてくれた。

 

悪戯っぽく笑って少し歯が出た彼は、大きな齧歯類のように見えた。