まともがわからない

虚実半々くらい

幽霊の気分で

7月終わりのこと。

ウイルスが猛威を振るう中、私はのっぴきならない事情で帰省していた。

用事もー段落付き、散歩がてら近所の本屋に向かっている道中、偶々小学校からの旧友とすれ違った。久しぶりの再会の挨拶もそこそこに、ところで知っているか、と彼が話し始めた。なんでも、我々の共通の同級生が昨日逮捕されたというのだ。事情があって事件の詳細については話せないが、もうすぐニュースになるのではないかとのこと。

旧友とは、今度ゆっくりご飯でも行こう、と言ってその場で別れた。

 

その夜、ふと旧友の話が気になった私は、ネットで地元のニュースを検索してみた。

件の記事は直ぐに見つかった。なるほど、私と同い年で、聞き覚えのある少し変わった名前の後ろに、「容疑者」の文字が並んでる。彼がしたことは、些細なことではあるが、被害者もいる立派な犯罪であった。

彼は不良ではなかった。真面目で、志が高く、ユーモアもあって友人も多かった。

かなり怠惰な学生生活を送っていた私は、少し斜に構えて彼を見ていたこともあった。

 

そんな話を母にすると、彼女が言った。

「あなたの年齢だとまだ珍しいと思うけど、私たちの年になるとそういうことってよくあるのよ。久しぶりに同窓会になんか行ってみると、いろんな話を聞くわよ。逮捕された人、亡くなった人、消息不明の人。みんなバラバラになって、それぞれの人生を過ごしていく中で、ふと社会の溝みたいなところに入り込んでしまって抜け出せなくなってしまう人がいるのよ。」

 

社会の溝、そう聞いて私は雪山に点在するクレバスを思い浮かべた。

冷え切った闇の中から抜け出せなくなり、好きだったことも感動したこともどんどん記憶から薄れていく。

恐ろしいと思った。そして、私も含め誰しもが、ふと気を抜いたらそこに滑落してしまう可能性を有しているのだと思った。

 

今年も気がつけば後半に入ってしばらく経つ。

社会的には未曾有のパンデミック、個人的には身近な人の死など、色々なことを考えさせられた夏であった。

こうして文章を書いている間にも、私はまた一つ年を重ねようとしている。

 

自分がいいと思ったこと、面白いと感じたことをなるべく忘れたくない。

後から見直して赤面するような陳腐な文章でもいいから、残していこうと思った。

 

幽霊の気分で、本当の幽霊になってしまわないように。

 

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※本記事は個人の特定を防ぐため、事実とは異なる情報を織り交ぜております。

 また、個人を非難するものではなく、誰しもがそうなりうるという立場にあり、

 彼(あるいは彼女)の今後の人生が有意義なものとなることを切に願っております。