まともがわからない

虚実半々くらい

仮面をはずさないで

リキッドルーム坂本慎太郎さんのライブを観にいった。

 

完全入替二部構成の第二部、早めにチケットの抽選に当選したこともあって最前列を確保することができた。挨拶とメンバー紹介以外のMCなし、アンコールなし、一時間ピッタリのストイックなステージ。ソロは複雑なアンサンブルから成る楽曲も多いため、いわゆる上モノがギター1本と管楽器のみのバンド編成で再現できるのか若干疑問であったが、そこは伝説のスリーピース・バンドのフロントマン、一聴すれば無骨にも聞こえるギターの音を絶妙にリズムの中に溶かし、惚れ惚れするグルーヴを作り上げていた。

 

坂本さんの楽曲は、飄々としているようにみえて、その中に社会への鋭い皮肉を内包しているところがすごく好きだ。

 

眉間に小さなチップを埋めるだけ/決して痛くはないですよ

ロボット/新しいロボットになろう

不安や虚無から解放されるなら/決して高くはないですよ

ロボット/素晴らしいロボットになろうよ

「あなたもロボットになれる」

 

 

ディスコって/男や女が踊るところ

ディスコって/不思議な音楽かかるところ

ディスコで/君は何もしない

ディスコも/君に何もしない

「ディスコって」

 

 

これらの楽曲はコロナ禍よりかなり前に制作されたものであるにもかかわらず、飲食店の営業が制限され、音楽イベントが相次いで中止を発表している現在の世の中に不思議と切実に響く。

 

ライブで特に印象的だったのが「仮面をはずさないで」という曲。

 

さわれば/やわらかすぎて

ショックで/壊れやすくて

仮面の上にもう一枚/仮面を

 

感染症対策としてマスクをつけることが日常になってしばらく経つ。

僕などはマスクをつけ忘れて外に出ると、下着を履き忘れたような羞恥に苛まれるようになってしまった。おそらく僕の中でマスクは、感染症に対するどこにもぶつけるアテのない不満を、覆い隠して内に留める一種のメタファーになっているのではないかと思う。

 

さらにこの曲はこう続く。

 

君が/演じている君の

横に/俺が演じる俺

芝居の中でもう一度/芝居を

 

 

けっこう前に寄席で「七段目」という古典落語を観た。

歌舞伎マニアのとある若旦那が、忠臣蔵をモチーフとした歌舞伎を演じる歌舞伎役者になりきって騒ぎを起こすドタバタコメディーなのだが、これをやる噺家は、「忠臣蔵に登場する平右衛門」を演じる「歌舞伎役者」を演じる「若旦那」を演じなければならないという、かなりややこしい多層構造を持った演目である。

 

どうか虚構であって欲しいと願うほどに不信感を覚えるニュースが毎日のように報じられ、かといって不満のはけ口も少なく、自分たちの役割を演じ続けることで精一杯な現状とのギャップに、どこかリアリティを感じられない日々ではあるが、自分の好きなものをしっかりと享受して、メタファーとしてのマスクくらいは少しずつ脱ぎ捨てていければいいと思う。

 

余談だが、最近家の近所で坂本慎太郎さんらしき人を何度か目撃した。

例によってマスクをしているため本人と断定できず、もし人違いなら小っ恥ずかしいことになる。

ライブを観にいった現在、今度こそ声をかけてみようかとも思うのだが、「仮面をはずさないで」と歌っている人のプライベートに話しかけるのも失礼な気がして、何となくモヤモヤしている。