まともがわからない

虚実半々くらい

高円寺ロータリー百景

4月某日

 

久しぶりに会った友人と飲んだ帰り道。

別れを惜しむように深夜の高円寺のロータリーでタバコを吹かしていた。

 

土曜日の夜ということもあってか、夜のロータリーにはたくさんの人が集っていた。

ギターを弾きながら「雨上がりの夜空に」を歌うバンドマン、地べたに座ってストロング・ゼロを飲む大学生グループ、見たことのない独自のゲームに興じる老人たち。さながら超低予算のウッドストック・フェスティバルのような高円寺の日常風景に安心する。

 

1本目のタバコの火が消え、家に帰ろうとすると男女グループに話しかけられた。

 

「暇なんで、ちょっと話してくれませんか」

チューハイの缶を片手にヘベレケになった鼻ピアスの女と取り止めもない会話を交わす。

 

2本目のタバコに火を着ける。

ふとグループに目を遣ると、YouTubeを観ながらラジオ体操に打ち込むヒゲモジャの男がいた。

 

「なぜ彼はラジオ体操をしているんですか?」

僕は問いかける。

 

「さあ?連れてきますね!」

鼻ピアス女がヒゲモジャ男の手を引き、僕らの前に連れ出す。

話を聞けば、強面な見た目とは裏腹にまだ22歳らしい。

 

当人に再度同じ質問をする。

 

「ラジオ体操が好きなんです。好きな芸人がラジオ体操のネタをやっていて」

彼は意外に甲高い声で答える。

 

そこでピンときた僕は尋ねる。

天竺鼠ですか?」

 

「ああ!そうです。天竺鼠、大好きなんです」とヒゲモジャ男。

「将棋の飛車と角がダンスするネタが好きです」と僕。

「結婚式のやつですよね!」とヒゲモジャ男。

 

なんか既視感があるな、と思ったらそのまま「花束みたいな例のアレ」じゃないか。

このまま儚い恋が始まってしまうのか、僕はパズドラしかできなくなるのか、などくだらない想像を巡らせていたがそんなはずもなく、会話の途中でヒゲモジャ男のグループが一目散に走り出す。

 

何事かと思い彼らが向かった方向を見ると、先ほどまでRCサクセションを歌っていた男が銀杏BOYZの「BABY BABY」を熱唱していた。

 

男に合わせて合唱するロータリーに集った若者たち。

 

高円寺という場所柄もあるのかもしれないけれど、僕らより少し上の世代のアンセムが22歳の若者たちにも今だに支持されていることにちょっと嬉しくなる。

 

友人と解散し、ほろ酔いのまま帰路に着く。

 

イヤホンを耳に挿し、Spotifyを起動して曲を流す。

 

「街はイルミネーション~」と口ずさみながら、ほとんど人のいなくなったアーケード街を踊るように歩いた。

 

www.youtube.com