まともがわからない

虚実半々くらい

ふしぎなおくりもの

仕事から帰るとアマゾンからの不在票が郵便受けに入っていた。

このあいだ注文した文庫本のものだろうと思いながら、不在票に書いてあるドライバー直通の番号に電話をかける。2コールほどでドライバーが出た。

こちらの名前と住所を告げると、再配達は明日以降になるとのこと。

「特に急ぎのものでもないのでいつでも構いません。明日は家にいると思いますが、文庫本なので不在の時はそのまま郵便受けに突っ込んどいてください」というと、わかりました、とハキハキした声が返ってきた。

 

翌日、洗い物をしているとチャイムが鳴った。

インターホンの画面を見ると若い宅配便の男が立っている。

短い応答の後、マンションのオートロックを解除しマンションの中に迎え入れた。

1分ほどして再度チャイムが鳴る。

扉を開けると、大きな箱を抱えた先ほどの配達員がいた。

「遅くなってすいません。こちらにサインをお願いします」と言われ、ミミズのような文字でサインをして荷物を受け取った。配達員はサインを確認するとそそくさと去っていった。

 

デカすぎる、と箱を受け取って思った。

アマゾンの箱が商品に対して大きすぎると言うのは、巷で語り尽くされた話ではあるが(中国では諺になっているとかいないとか)、それにしても大きすぎるし、何よりも文庫本一冊とは到底考えられないほどずっしりとした重みがある。

おそるおそる箱を開封すると、思いもよらないものが入っていた。

 

スケボー???

 

そこには紛うことなきスケートボードが入っていた。

ニンバス2000が届いた時のハリー・ポッターのような気分ですぐにアマゾンの注文履歴を確認すると、文庫本の前に確かにスケボーを発注した形跡がある。

日付を見ると、人と飲んでいて泥酔していた夜のものだと分かった。

酔っ払ってモノを買う、と言うことは私にとって日常茶飯事である。

大抵は買おうか買うまいか悩んでいるモノをその場のノリで買ってしまうと言うことが多く、記憶にも残っているのだが、これについては全く覚えていなかった。

 

幸い高額なモノではなかったので、返品はせずにとりあえず家の中で乗ってみることにした。

なるほど、なかなかバランスをとるが難しい。

外で練習してみよう、と思い立ったが、人目につくのは恥ずかしいので深夜になるのを待って、丑三時の公園で乗ってみた。イメージトレーニングのために見たYouTubeの動画ではみんな容易そうに乗っていたので行けるかと思ったが、全く前に進まないし方向転換もできない。やがて汗だくになった体に冬の風が徹えてきたので家に戻った。

 

このままインテリアにするのも悪くないが、せっかくなので乗れる人がいたら教えてもらいたい。

マスマティックが止まらない

今の職場には理系の人が多い。

 

昨日なんぞは何人かが重回帰分析の話題で盛り上がっていて、中途半端に経済学部を卒業している私も巻き込まれそうになったが、必修の統計学の授業をテストの日だけ出席してギリギリ「可」で修了した私に語れることなど何もなく、「自分、文系なンで」とその場をエスケープした。

 

学生時代は数学は嫌いじゃなかったんだけど、授業はつまらなかったので教科書のコラムページに載っていたラマヌジャンの逸話を読んだりして時間を潰していた。

ラマヌジャンは極めて直感的な閃きで数々の定理を発見し、「魔術師」の異名を持つインドの数学者だ。32歳と言う若さで亡くなったが多くの天才的な逸話を持っており、ファンも多い。

彼は閃きから定理を発見するため、結果は合っていてもその間の証明式がわからないことが多々あったと言うのだから驚きである。

 

昨日は仕事で疲れ果てていたので、おいしいものでも食べて体を労わろうと、神保町にあるカレー屋「エチオピア」に足を運んだ。

ボンディやキッチン南海などの有名カレー店が数多く存在するカレー激戦区の神保町において、本格的過ぎず、かつ媚び過ぎてもいないのがエチオピアの好きなところだ。野菜、エビ、ビーフ、チキンなどメニューが多く、気分に応じて選択できるのもいい。

席に着くとすぐに出てくるウェルカム・ジャガイモを食べながら何気なくメニューを見ていると、カリーの辛さをお選びください、という文言の下に、「0・1倍・2倍・3倍・・・。最大70倍まで可能です。0で一般的な中辛口になります」と書かれていた。今まで気にしたことはなかったのだが、なんとなく違和感があった。普通は1倍からスタートするもんじゃないのか?

しかし、昼間ラマヌジャンのことを考えていた私はすぐ腑に落ちた。

ここはインドカレー屋だ。ゼロの概念を数学的に定義したのも7世紀のインドの数学者、ブラフマグプタだと言われている。インド人はゼロへのこだわりが半端ないのだ。一人で勝手にそう納得しているとカレーが運ばれてきた。

久しぶりに食べるビーフカレーを味わいながら、ふと後から入ってきた隣の席の男に目をやると、「線形代数」と書かれた本を広げていた。

 

マスマティックが止まらない!

 

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齧歯類の夜

知らない人と話をするのは面白い。

 

先週末は、友達のライブを観るために久しぶりにライブハウスに行ったり、解散してしまったけど大好きなバンド、シャムキャッツのフロントマン夏目氏とほんの少し話せる機会があったり、初対面の人と話をすることが多かった。

以前はそういうのが緊張してすごく苦手だったんだけど、今は少し大人になったのか、よく知らない人に自分の話をしたり、反対に自分の知らない世界を教えてもらうことがとても好きになった。

 

偶然知り合った青年(彼は専門学生で、普段は自転車泥棒をしていると言っていた)と話していた時、何となくペットで飼っていたハムスターの話になった。

その時に思い出したエピソードがある。

 

小学生の頃、ハムスターを飼っていた。

当時は今より動物愛護の認識が広まっておらず、お祭りの輪投げの景品として普通にハムスターが並んでいて、せがむ姉と私を見かねて父が大人気ない反則スレスレの技で獲得してくれたものだった。

 

彼(正直、性別は忘れてしまった)はSASUKEばりのアクロバティックな脱走を試みたり、炊き立ての白米が大好物であったり、なかなか変わったハムスターであった。

多くのペットがそうであるように彼は我々家族に癒しを与え、幼かった姉と私もこの大きな黒目の小さな家族を不器用に可愛がっていた。

 

当然、生き物には寿命がある。

3年以上生きた彼も天に召され、初めて経験するペットの死に泣き喚く姉と私を乗せて、埋葬のため父が山奥の公園まで車で連れて行ってくれた。大きな恐竜のオブジェがある公園だった。

 

数年後、大学生になった私があてもなくインターネットを見ていると、ある記事に行き当たった。それは例のハムスターを埋葬した公園についてのものだった。記事によると、どうやらここ数年の間に公園は心霊スポットと化していたらしい。実際の潜入レポのようなものもあり、「恐竜のオブジェの目が動いた」などという体験談がまことしやかに書れていた。

 

あいつのしわざだ、と私は思った。あいつが恐竜の目を動かしてるんだ、と。

それ以来、夜の公園で人間をからかうハムスターの亡霊を想像すると、今でも私は愉快な気分になるのだ。

 

私が話を終えると、青年は「なんですか、それ」と呆れていたが、では僕からも秘密の話を一つ、とわざとらしく勿体ぶってから、「タピオカって実はチワワの目なんです」とこっそり教えてくれた。

 

悪戯っぽく笑って少し歯が出た彼は、大きな齧歯類のように見えた。

Ctrl+V(あるいは、command+V)

ステッカーを作るのがマイブームだ。

特に意味はない。どこに貼るあてもない。

ありがたいことに欲しいと言ってくれた人には渡しているが、何のメッセージ性も主義主張もない。

ただ最初に適当に作ったのが楽しくてハマっている。

 

以前見たアメリカのストリートカルチャーを扱ったドキュメンタリーで、インターネットがない時代、ステッカーは当時のバンドマンやスケーター、グラフィティアーティストたちのコミュニティにおいて、名刺の役割と宣伝広告の役割を兼ね備えていたとの話があり、いいなあと思ったのがきっかけだったと思う。

 

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これは最初に作った「フーディー」というシリーズ。

FOODIE(グルメ)なHOODIE(パーカー)という駄洒落だ。

単純な駄洒落なのでネタ被りを恐れて色々調べたが、モデルの青柳文子氏がそう言ったコンセプトのパーカーを作っていたと言う記事しかヒットしなかったのでセーフだと思う。こいつには今後も色々食べさせていきたい。

 

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これらは最近刷ったもの。

世界三大珍獣の一つで「森の貴婦人」ことオカピやノエルギャラガー(のつもり)など色々だ。

ノエルギャラガーはうろおぼえで描いたけど、本人にあんまり髭が生えていないことに後から気付いた。

 

今日は渋谷の街を彷徨っていたが、至る所にステッカーが貼り付けられていた。

その犯罪性はともかく、いずれもデザインが凝っており、メッセージ性も秘められているように思われた。

 

私はメッセージ性がないことをメッセージとして飽きるまでは作り続けるつもりなので、もし欲しいという方がいたら(いないと思うが)会った時にあげます。

サンデイ

朝帰りした日曜日。

ゆっくり寝たので眠くはない。

かと言って何もやる気が起きない。

「風呂に入ると決めてから実際に入るまで長すぎ選手権」があったらいい線いくんじゃないだろうか。

全力を振り絞って風呂に入り、洗濯をする。

そのあとは本を読んだりゲームをしたりしたけど疲れてしまって、喫茶店にでも行こうかしらと思った矢先に土砂降りの雨。何もうまくいかない。

 

少し仕事を進めている内に雨が止んだので、クリーニングを取りに行く。

仕上がりまでに少し時間があったのであてもなくコンビニに入る。

「愛はコンビニで買える」とスピッツが歌ってたけど本当だろうか。

 

クリーニング屋からシャツをもらって歩いていると、美容院から足早に出てくる女性。

少し後から謝りながら追いかけてくる美容師の男性。

次に通りかかった別の美容院では女性が美容師の女性と楽しそうにツーショットを撮っていた。おそらくSNSに載せるためのものものだろう。

それぞれの日曜日。

 

帰宅してミツメのライブ配信を観る。

日曜日は酒を飲まないと決めているのに、演奏がよすぎて思わず缶ビールを空けてしまった。

昨日観たスカートの配信もすごくよかったけど、やっぱり早くライブハウスで観たいと思う。

 

日曜日の夜は少し憂鬱になる。

A面が終わったのに回転を続けるレコードのようで、時おりノイズのように寂しさがよぎる。

 

明日から始まるB面に備えてゆっくり体を休めよう。

 

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上がってんの?下がってんの?

みんなはポケモン何世代?

かくいう私は金銀生まれルビーサファイア育ちだ。

 

ご存知の方がほとんどだと思うので詳しい説明は省略するが、ポケットモンスターにはシリーズ毎にストーリーの核となるモンスター、いわゆる「伝説のポケモン」が存在する。

小学生の私が寝る間も惜しんでプレイしていたポケットモンスタールビー版で言うところの「グラードン」というキャラクターだ。

グラードン」は物語終盤のイベントでシンボルエンカウントとして登場し、一度きりの「ゲット」のチャンスが与えられる。伝説のポケモンはその名の通り、その他の野生ポケモンと比較して体力や攻撃力などのステータスが高く、かつ捕獲確率が低い仕様となっているため、舐めてかかるとこちらのパーティーが全滅させられてしまう。そのため、バトルの直前でレポートをかいて(セーブする、の意)から挑み、捕獲に失敗すれば直前からやり直す、という行為を何度も繰り返すのである。

 

ポケモンには捕獲のために必要なアイテムであるモンスターボールに加えて、その上位互換であるスーパーボール、ハイパーボール、さらには狙った獲物を100%捕獲できるマスターボールが存在するのだが、なぜか当時の私は「伝説のポケモンは通常のモンスターボールで捕まえるべきだ」という考えに執着していた。ただでさえ入手難易度の高いグラードンを、捕獲率の低い通常のモンスターボールで捕獲しようとするため、当然ながらかなりの長期戦となった。

当時の私はこのポケモンを、併せて買ってもらったゲームボーイアドバンスSPでプレイしていた。

ゲームボーイアドバンスSPは、当時としては画期的な二つ折り式の携帯ゲーム機であった。

グラードンの捕獲に苦戦し、少しおかしくなっていた私は、ボールを投げた直後にゲームの画面を閉じ、祈り、そっと開いて確認する、というスタイルにたどり着き、それを何度も繰り返した。何の意味もないが、画面を見ていない方がうまくいくような気がしたのだ。

 

最近いろいろあって、FXで一発当てろと言うミッションが私に課せられた。

私は為替に関してはズブの素人だし、ギャンブルの才能もからっきしである。

それらしい根拠を並べて売った買ったを繰り返してはいるが、正直全くの勘である。

見ていたところでどうしようもないのだが、家でも為替チャートから目が離せず、たった1銭が上下する動きに心を揺さぶられるようになってしまった。

 

そして気がつけば子供の頃と同じことをしている。

パソコンの画面をそっと閉じ、数時間後にそっと開く。状況が好転していることを祈って。

 

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東京の空の星は

真夏のピークが去った。

長らくテレビを見ていないので天気予報士が言っていたかどうかは知らないが、9月に入った今日は少し涼しかった気がする。

 

気がつけば早いもので、関東に越してきてから5ヶ月が経った。

緊急事態宣言が発令される中の引越しで、長らく身動きが取れない状況が続いていたが、最近は少しずつこちらでの生活を楽しめるようになってきた。

 

関西にいた時よりも人と会って話す機会が増えたようにも思う。

好きな人たちに会って、話して、笑って、そんなことが幸せだということに改めて気づかされる今日この頃。

こちらでお気に入りの喫茶店、本屋、映画館、バー、カレー屋なんかも見つけることができた。

 

今はこの街を、東京を、もっと知りたいと感じている。

そうすればもっと好きになれるんじゃないかと思う。

 

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高円寺陸橋。

フジファブリックの「茜色の夕日」というシングルのジャケットになっている場所だ。

写真や映像でしか見たことの無かった風景が至るところに何気なくあるのも東京の面白いところだと思う。

 

もちろん関西が恋しいという気持ちもある。

生来人見知りの私であるが、最近は場所にかかわらず色々な人と会って話したいという気持ちが強くなっている。

皮肉なことに簡単に人に会いに行けないこの状況がそうさせたのだろう。

 

日々せわしなく、液晶画面に向かうばかりで空を見上げる余裕もない生活が続いている。

もう少し落ち着いたら、夜空の星でも見ながら楽しい計画を立てられればいい。

星が見えない曇り空の下、まだ生温い風に吹かれながら思った。